地元企業の独自性をネットで生かし、新しい「モノづくり」を切り拓く
日本を代表する工業集積地の一つ、長野県・諏訪地域。中小下請け企業が2000社以上あるこの地域で、若手経営者たちが立ち上がりインターネットを利用した地元の産業活性化を進めている。過去5年間の経験を資産に、新しい「モノづくり」スタイルを展開中だ。
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●諏訪のモノづくり活動を語る
インターネット普及からスタート バーチャル工業団地を立ち上げる
中小企業が集まる諏訪地区で、なんとか地元産業を活性化させようと立ち上がったのが、大橋俊夫氏。大橋氏は地場の産業地域をネット網でつなげることで、世界を相手に商売ができると考えた。が、それを実現するまでの道のりは険しく、取り組み自体が地域全体を見つめなおすきっかけとなる。
・きっかけは電気自動車製造「とにかく何か始めたかった」
「もたれあいでは決して活性化にはつながらない。個々がアイデンティティーを確立し知恵を出し合って”共栄”することが大切なのです」
・未来のモノづくりにネットは欠かせない
・・・地域の製造業1000社の企業ガイドを集めた岡谷市のCD-ROMの製作に携わったことで、ふとあるアイデアがひらめく。
「CD-ROMの企業ガイドをネットにのせればCALSができる!これなら世界を相手にモノづくりができるんじゃないか」。そうして誕生したのが、地元製造業者の共同受注を主な目的とした「インダストリー研究会」だ。
・・・情報を共有することの重要性、そしてインターネットが製造業にとっていかに有益かを伝えるために、ネット普及の地道な活動を開始した。
・「インターネット・スナック」でネット普及に努める毎日
・・・「インターネットって何?という状況の中、無料で御社のホームページを作ります、と言っても、新種のセールスじゃないかと疑われるばかりでしたよ」と当時を思い出して笑う大橋氏だが、その活動には涙ぐましいものがある。
少しでもみんなにインターネットの秘めた可能性に触れてもらおうと、なじみのスナックにパソコンを数台持ち込んでは製造業者を招き、そこでネット体験をしてもらったというのだ。
・企業の特性や商品力突き詰め、相手に的確に伝える能力必要
まさに草の根活動といえる大橋氏たちの地道な努力。その甲斐あって96年12月、地元製造業10社が参加して、eプラットフォームを目指したポータルサイト「諏訪バーチャル工業団地」を立ち上げた。
・インターネットは自分自身を映し出す鏡である
現在、 諏訪の製造業界では大橋氏を中心に足元を固め、個々のアイデンティティーを構築するためのさまざまな活動を行っている。そのひとつは製造業者の情報交換のためのメーリングリストだ。
3年前わずか35人で始まったメーリングリストも、現在は150人が参加。
「今まではヒト、モノ、カネを社内に抱えることが競争力の源で、そうして発展した会社もあった。しかし、これからは『ネットワーク上での知識の交換を通して、モノづくりを進化させていくことこそが競争力の原動力だ』という京都大学経済学研究科の出口弘助教授の話に深く共感しています。われわれは地域と連動しながら新たな価値を作り、製造業一社一社が『勝者』になることを目指しているのです」
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一橋大学院商学研究科教授 関 満博氏 |
●過去5年間の試行錯誤が諏訪地域の資産や魅力になった
一橋大学院商学研究科教授 関 満博氏
ネットは価格をたたきあう世界
日本の工業集積地で実験を経験しながら進んでいるのは、岡谷市の大橋さんがやっているバーチャル工業団地(S-VIP)です。ずいぶん試行錯誤して、いろいろな考え方が見えてきた。
大橋さんはまず最初に諏訪地区の中小企業をネットにのせて、世界から受注しますとやってみた。やってみてまずわかったのは「(ネットは)価格のたたきあいの世界である」ということ。ネットで広く取り引きするのは、ボルトとかナットといった標準品。だけどこれらの製品では安いところ、安いところに注文が流れてしまう。これでは、ネットでやったことが逆に自分たちの首を締めることになる。だから最近はそれをやめてるんです。今はポータルサイトにしようという動きがある。入り口・出口を集約して、諏訪の技術力の集積を持って諏訪ブランドをアピールしていこうと変わってきています。
地元企業のレベルアップが重要
非常に興味深いのは、そうなって初めて「ネットは空間を越えるからこそローカルを大事にしないとダメだ」と気づいたこと。地元、特に諏訪あたりには下請けの中小企業がたくさんある。そのつながりをつぶしちゃいけないんですよ。その力を蓄えていって、それを全体として使用しなければならないと。大橋さんはこういう言い方をする。「ネットでは毎日、一見の客と取り引きすることになるが、それでは地域が豊かになるわけがない」って。仕事を受けるにはもっと信頼感が必要で、だから「諏訪に任せて欲しい」といえるように、地域全体でちゃんとやれるようにならなくちゃ。こういう考え方に彼らは変わってきている。
だからこそ、地元企業の技術のレベルアップ、標準化・平準化というのが必要になってくる。ネット化すればするほど地域企業間の濃密な関係が必要になります。諏訪はまさにそういう状況まで達している。
ネットは場所や空間を超えるはずなんだけど、やってみたら意外と地域の情勢と無関係ではないことがわかった。そこまで進んでいるのは諏訪のバーチャルコミュニティーだけですね。全国に諏訪のような取り組みをしている地域は50くらいあるけど、ほかはまだ始まったばかり。過去5年間でここまで経験し、この仕組みや考え方にいたっているのは、諏訪地域の資産であり魅力でもあります。(談)
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●ネットで仕事の受発注・情報交換 「S-VIP」参加70社のIT化進む
ネット上に集まる企業集合体、それが諏訪バーチャル工業団地(S-VIP)だ。ネットを利用した仕事の受発注、サイトによる自社のアピール、メーリングリストによる情報交換などが日々活発に行われている。当初、10社でスタートしたS-VIPも今では参加企業が70社、専門家や識者を含めるとトータル人数は100人に拡大している。大橋氏のビジョンに賛同し自社のIT化を進め、S-VIP設立当時から活躍する主要メンバーを紹介しよう。
・製造業は刻々と進化している 岡谷を新しい「モノづくり」の発信基地に
株式会社ダイヤ精機製作所 常務取締役 小口 裕司氏
・一日かかっていた営業が数分に短縮 いまやメールは欠かせないITツール
コジマ工業有限会社 代表取締役社長 小島 一昭氏
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●地元産業の活性化をバックアップ
諏訪地区のIT化が進んだのは、行政の理解とインフラ環境の整備があったから。地元企業と連携して仕事の受発注拡大を目指す岡谷市工業振興課と諏訪周辺地域のネット環境整備を促進するCATV会社に話を聞いた。
・民間企業とのパイプ太く 地場産業を全力でサポート
岡谷市経済工業振興課 工業主幹 杉本 研一氏
・CATV世帯加入率98% 快適なネット環境づくりを目指す
エルシーブイ株式会社 メディアミックス推進部 河西 弘太郎氏
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